「組織をなくしてから作る」より「いまある組織を保存する」
この方がはるかに成功率も高く痛みや腫れも少ない。
保存不可能な歯をあえて全て抜歯せずに歯根の一部を意図的に残す。
これをソケットシールド・ルートメンブレンテクニックと言います。
天然歯の歯根には血流が豊富な歯根膜が組織が付着している。
歯を抜くとその歯根膜からの血流がなくなってしまうので、
時間の経過とともに周囲の歯槽骨や歯肉の委縮が進行します。
前歯の様な審美的に重要な部分の治療の場合はその組織の委縮が致命的。
機能的に咬めるだけでなく周囲組織の形態バランスはとても重要。
なので軟組織(歯肉)移植や骨造成など様々な組織再生を行うのです。
組織保全のために保存不可能な歯の感染部分だけを完全に除去し、
健全部分だけを意図的に残し周囲組織への血液供給を途絶えさせません。
残し方にはいろいろあるが今回は唇側の一部を残しました。
唇側の皮質骨は一部を残してすでに吸収してしまっている。
全体の骨量はかなり少なくこのままではインプラント埋入は不可。
最終上部構造装着後の側面CT画像。
唇側に一部残した歯根と骨造成した部分が一体化しインプラントを支持。
通常のソケットシールドだと同時にインプラント埋入まで行うが、
今回はあまりにも骨厚みがないシビアなケースだったので、
シールドを作った後に歯肉内部にスペースを作り骨造成を行った。
その後、吸収性人工膜で封鎖し仮歯を装着し約9か月ほど待ち、
あらためてインプラント埋入を行うステージドアプローチで行いました。
大きな切開剥離を加えず袋状にホールドさせた部分は予想以上に骨再生しています。
そして板状のシールドの左側先端にはわずかに既存骨が残っている。
周囲組織を挫滅させなかったのでしっかり残り歯槽提の先端となり、
歯肉など周囲全体の形態をキープしてくれています。
カムログインプラントシステム(独)コーンログプログレッシブ
直径3.3mm 長さ11mm
最終上部構造は強度維持のためにあえてカスタムチタンアバットメントを使用。
セメント固定ではなく角度付きスクリュー固定で残留セメントの炎症に配慮。
手術回数は今日含めて2度だが、
・縦切開
・広範囲な骨膜全層弁剥離
・減張切開
・結合組織移植
・他部位から採取する自家骨移植
など、痛みと腫れが大きくなる術式は1つも行っていない。
歯科治療…特にインプラント治療は派手な術式に興味が集まりやすいが、
キャリアを積めば積むほどそこだけでなく、
元々生体の持つ力を利用した低侵襲治療に取り組むようになりました。
「組織をなくしてから作る」より「いまある組織を保存する」
人間が元々持っている自然治癒力をうまく活用することで、
痛みや腫れの少ない低侵襲歯科治療が可能なのです。
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