私達歯科医師の仕事の8割は、
前にどなたかが行った治療のやり直し。
最近は予防中心の歯科医院も増えたが、
一般的な歯科医院はどこもそうだろう。
人は誰でも加齢とともに身体機能が低下する。
皮膚がガサガサになって染みが出来たり、
髪が抜けたり白髪になったりする。
同じように口腔内も加齢による変化がある。
良く咬めるほど摩耗するし唾液の分泌量も減少する。
詰め物やかぶせ物の適合も時間の経過とともに甘くなり、
そこからまた2次的なう蝕が進行したりする。
神経を取った歯も乾燥し劣化します。
昔々他の歯科医院で前歯2本をインプラントにした患者様のご相談。
隣の2番目の天然歯がぐらつき歯肉が少し腫れている感じがする。
レントゲンで確認すると斜めに破折線がありそこから感染していた。
歯槽骨は吸収(痩せ)し左のインプラントの骨吸収とつながっている。
前担当医が行ったそもそものインプラントの位置やサイズも気になる。
その周囲の骨吸収も心配ではあるが歯肉の退縮はないし揺れもない。
なのでひとまず2本のインプラントの上部構造を撤去し、
2番の抜歯後この2本を支台にした仮延長ブリッジを装着した。
抜歯した歯根はレントゲンでの予想通り斜めに亀裂が入っていた。(写真上)
2番目の歯が揺れ1番目のインプラントが骨吸収している割には、
大きな歯肉退縮は今のところなかった。(写真上)
抜歯したので歯肉が引き締まったら多少の退縮は起きるだろうが、
審美的には問題のないレベルで落ち着きそうである。
そもそも前歯の2番は骨幅が少ない。
更に隣に少し太めの古いインプラントが入っている。
そしてその周囲が骨吸収を起こしている。(写真上)
そういった様々な理由からあえて抜歯部位はそのままにする。
追加のインプラント埋入は今はあえてしないのだ。
狭く骨幅がないところに接近してインプラントを入れるのは、
前歯の様に審美的要求が高い部位には絶対禁忌。
最低でも全周1.5ミリ…できれば2ミリの支持骨でサポートしたい。
そしてインプラントを埋入するための外科処置を行えば、
更に前歯2本の歯肉は退縮が進行する。
もし将来的にこの太いインプラントが保存不可能になった時、
初めてこの前歯の2本欠損をどうするか根本的に考えたい。
隣のもう1本のインプラントも合わせて、
この2本のインプラントを回復させていく。
抜歯した部位の歯肉が落ち着いてきたら、
隣の吸収した太いインプラントの不良肉芽を除去したい。
その際はメスではなくレーザーや高周波メスなど使用し、
汚染部分を洗浄してインプラント周囲炎の対応をする。
インプラント撤去して1からやり直しをを提案する人も多いようだが、
せっかく時間をかけて高い費用をかけて行ったのですから、
できるだけ長期間維持させてあげたい。
そういう意味で周囲炎対策はとても重要なのです。
シンプルで効率の良い先を見据えたリカバリーが重要です。
天然歯と同じようにインプラントも同じように環境変化します。
どこまでやり直すか…
患者様とともに考えなければなりません。